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東京地方裁判所 昭和32年(刑わ)4434号 判決 1962年2月26日

判  決

一、被告事件名

贈賄(昭和三二年刑(わ)第四四三四号)

公職選挙法違反(昭和三四年特(わ)第五七八号)

被告人氏名

小林儀光

一、被告事件名

贈賄(昭和三二年刑(わ)第四四三四号)

被告人氏名

岩味熊雄

一、被告事件名

贈賄(前同号)

被告人氏名

中西千代次

一、被告事件名

改賄(前同号)

被告人氏名

並木貞人

一、被告事件名

収賄(前同号)

被告人氏名

平野井雷治

一、被告事件名

収賄(前同号)公職選挙法違反(昭和三四年特(わ)第二九六号)

被告人氏名

辻昇

一、被告事件名

収賄(昭和三二年刑(わ)第四四三四号)

被告人氏名

大日方昇

主文

被告人小林儀光を禁錮四月に

被告人辻昇を禁錮六月に

それぞれ処する。

但し被告人両名に対し本裁判確定の日より二年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用中別表第一記載の各証人に支給した分は被告人小林儀光の負担とし、別表第二記載の各証人に支給した分は法告人辻昇の負担とする。

本件公訴事実中被告人小林儀光、同岩味熊雄および同中西千代次に対する各贈賄、被告人並木貞人、同平野雷治、同辻昇および同大日方昇に対する各収賄の点につき被告人らはいずれも無罪。

理由

(事実)

第一、被告人小林儀光は昭和三四年四月二三日施行の東京都議会議員選挙に同都渋谷区から立候補したものであるが、その以前より右立候補の決意を有し、その立候補の届出がないのに拘らず

(一)  西郷フジヱと共謀のうえ、自己に投票を得る目的をもつて、別表第三記載のとおり同選挙区の選挙人である金子貞子方外一五名方を戸々に訪問し、自己のため投票を依頼して戸別訪問し、

(二)  自己に当選を得る目的をもつて、昭和三四年一月上旬ごろ、東京都渋谷区幡ケ谷笹塚町一一八三番地の自宅において西郷フジヱに対し、自己のため投票ならびに投票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その報酬として現金一、〇〇〇円を供与し

(三)  同年三月一〇日、同区代々木初台町六七一番地先路上において、右西郷フジヱに対し、同人が被告人小林儀光のため、同人と共に別表第三の(1)ないし(7)記載のとおり戸別訪問をして選挙運動をしたことの報酬として現金三〇〇円を供与し

(四)  同月三〇日同区代々木新町五八番地飲食店赤垣こと成瀬さだ子方において、右西郷フジヱに対し、同人が被告人小林儀光のため同人と共に、別表第三の(8)ないし(16)記載のとおり戸別訪問をして選挙運動をしたことの報酬としてうなぎ蒲焼(価格五一〇円相当)を供与し

もつて立候補届出前の選挙運動をなし、

第二、被告人辻昇は昭和三四年四月三〇日施行の東京都渋谷区議会議員選挙に際し、かねてより立候補する決意を有していたものであるが、自己に投票を得る目的をもつて、未だ立候補の届出がないのに拘らず、別表第四記載のとおり、同選挙区の選挙人である小林喜政外一一二名方を戸々に訪問して自己のため投票を依頼し、もつて戸別訪問をして立候補届出前の選挙運動をし

たものである。

(証拠)≪省略≫

(適条)

第一、被告人小林儀光に対する分

一、罰条 第一の(一)の事実につき

(戸別訪問)包括して刑法第六〇条公職選挙法第二三九条第三号第一三八条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項、(事前運動)刑法第六〇条公職選挙法第二三九条第一号、第一二九条罰金等臨時措置法第二条第一項、(一所為数罪)刑法第五四条第一項前段第一〇条(戸別訪問罪の刑に従い禁錮刑選択)、

第一の(二)ないし(四)の事実につき

(各供与)公職選挙法第二二一条第三項第一項第三号(第一の(二)につき第一号)罰金等臨時措置法第二条第一項、(事前運動)公職選挙法第二三九条第一号第一二九条罰金等臨時措置法第二条第一項、(一所為数罪)刑法第五四条第一項前段第一〇条(各禁錮刑選択)

一、併合加重 刑法第四五条第四七条第一〇条(重い(二)の供与罪の刑に加重)

一、執行猶予 刑法第二五条第一項第一号

一、訴訟費用の負担 刑事訴訟法第一八一条第一項本文。

第二、被告人辻昇に対する分

一、罰条 (戸別訪問)包括して公職選挙法第二三九条第三号第一三八条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項(事前運動)公職選挙法第二三九条第一号第一二九条罰金等臨時措置法第二条第一項、(一所為数罪)刑法第五四条第一項前段第一〇条(戸別訪問罪の刑に従い禁錮刑選択)

一、執行猶予 刑法第二五条第一項第一号

一、訴訟費用の負担 刑事訴訟法第一八一条第一項本文。

(無罪の判断)

被告人らに対する贈収賄に関する公訴事実は昭和三二年一二月四日付起訴状記載の各公訴事実を引用する。

右公訴事実中冒頭の事実は

<中略>

によりこれを認めることができる。よつて被告人らが渋谷区議会議員として前示区長候補を定め区長を選任することの職務に関し前記の如き金員の提供、授受が行われた以上一応外形的には刑法第一九八条第一九七条第一項に該当することになるが、区議会議員がその区長候補を定め区長を選任することは以下述べる理由により区議会議員の本来有する適法なる職務権限とはいえないから、右事実につき贈収賄罪の成立する余地がないといわねばならない。以下この点につき詳細説明する。

一、弁護人長谷川一雄および同大月和男らは地方自治法第二八一条の二の規定は憲法違反なる旨主張し、その論拠の要旨は、都の特別区は憲法第九三条第二項に規定する地方公共団体に該るから、特別区の区長はその住民の直接選挙によるべきであるに拘らず、地方自治法第二八一条の二がいわゆる間接選挙の方法を採つたのは、右憲法第九三条第二項に違背し無効である。したがつて、地方自治法第二八一条の二により区議会議員がその区長を責任することは適法なる職務ということができず、この違法なる間接選挙にあたりこれに関して金銭の授受が行われたとしても、何等贈収賄罪を構成しないと争うに対し、検察官は元来都の特別区は憲法上の地方公共団体に属せず、地方自治政策の必要によつて認められた地方自治法上の公共団体に過ぎないから、地方自治法第二八一条の二の規定は何等違憲でない旨反論するのである。

一、本来贈収賄罪の成立には公務員がその職務に関し不正の利益を受けることを要件の一つとされているが、その職務権限は単に外形上のみならず本来的にも適法有効なることを前提とするものと解するのが相当であるところ、本件においては区議会議員が区長の選任に関する職務権限ありとするの根拠は、地方自治法第二八一条の二に存すること明白であるから、もし弁護人主張の如く、同条が違憲無効のものであるならば、区議会議員の区長選任に関する限り、本来適法有効なる職務権限が存在しなかつたものというのは外なく、したがつてこれに関する金員の授受行為は、贈収賄罪の要件を欠くものとして同罪の成立を認め得ないことになるから、地方自治法第二八一条の二が憲法第九三条第二項に違反するか否かを検討する必要が生れてくるのである。よつてこの点につき判断することとする。

一、都の特別区が憲法第九三条第二項の地方公共団体に該るか否かについては、すでに第一三国会において、地方自治法の改正に当り白熱的論戦が展開せられ、多教の公述人の意見を徴して論議されて来たが、違憲論の声が大であつたのに拘らず、ついに合憲論が勢を制し、特別区が都の内部的団体へと性格の変更を生じたものとして、区長の公選制が廃せられる運命に立ち至つたことは衆知のとおりである。しかしながら、同国会における論戦を仔細に検討するときは、合憲論を主張する者の大半は、都と区との事務調整という専ら行政的方面に論戦が集中し、憲法解釈の立場から合憲論を展開したものは必らずしも多くなかつたようである。

由来憲法は国の根本法規であり、国家存立の法的基礎をなすものであるから、これが解釈に当つては細心慎重を期せねばならず、時の施政の都合上、これに便宜的恣意的な解釈を下すことは、もとより許されないところであり、憲法成立の由来を考え、その企図せる精神を洞察し、この精神を遵奉することこそ、真に憲法を擁護する国民の崇高なる責務といわねばならないのである。しかして、憲法が旧憲法に存しなかつた新たなる地方自治の条章を設けるに至つた所以は、民主政治確立のためその基礎として地方自治の重要性を認め、過去において犯された中央集権より由来する弊害を排除し、地方分権の徹底化、すなわち民主主義原理よりする地方に関することは地方民の自治に委すという団体自治、住民自治の精神を貫き、地方公共団体の完全なる発展を希求するにあること論を俟ないところで、憲法第九二条に「地方自治の本旨」に基くというのがこのことを意味するに外ならず、憲法第九三条の「地方公共団体」の意義を解釈するに当つても、右の精神を離れては、到底正解することを得ないと思うのである。

一、憲法第九三条第二項には「地方公共団体の長……はその地方公共団体の住民が直接これを選挙する」と規定されているが、この地方公共団体とは何を指すかにつき明らかにされていないから、憲法制定当時において、如何なる公共団体がこれに該当したかを検討する必要を存するのである。都道府県および市町村がこれに該当するについては何人も異論がないであろう。しかし、都の区がこれに該当するか否かが問題の存するところである。しかしてこの区は後述するとおり、区住民に直接行政を執行する団体であり、憲法制定前たる昭和二一年一〇月東京都制の改正により、その区長が公選されていたのであるから、憲法制定に当つては、この既成事実を認めた上憲法上の地方公共団体という概念が用いられたと考えるべきであり、憲法第九三条第二項にいう「地方公共団体の長」には、すでに区の長もその中に包含されていたものと解するのが相当である。しかして、その後地方自治法が制定せられ同法第二八一条第二項が設けられるに及び、区は特別区として憲法上の地方公共団体であることが宣明せられ、地方自治法上特別区は市に関する規定の適用を受け市と同格に取り扱われていたものである。しかるに第一三国会における地方自治法の改正はこの特別区の権限を縮少し、自治区という名目を残しつつも都の内部的機構に下ろし、これを理由に区長の公選制を排するに至つたのであるが、特別区は前示の如くすでに憲法上の地方公共団体であること明白であるから、単なる自治法の改正のみにより区長の公選制を奪うことは、憲法の要請する「地方自治の本旨」に違背し到底肯認することは許されず、したがつて改正された地方自治法第二八一条の二は、明らかに憲法第九三条第二項に牴触するものと解せざるを得ないのである。

一、検察官は、都の特別区は東京都における区の制度の沿革からしても、また後述する他の関係諸法令に徴するも、必らずしも市町村と完全に同じ性格のものとはいえず、都は条例で特別区につき必要な規定を設けることができ、都知事は特別区に都吏員を配属することができる等特別の扱いを受け、又公職選挙法、地方交付税法、旧警察法、消防組織法、道路法等においても、個々の特別区を対象とせず、特別区の存する区域を一体として取扱い、特別区に市の性格を与えず、却つて都に市の性格を併有させていたことが明らかである。かくの如く特別区は、地方自治法上基本的には一応市に準ずるものとされながら、都の一体をなして大都市を構成する部分的地方団体であるという特殊な地位のため、特別法はもとより地方自治法においてすら特別的な取り扱いが認められ、憲法上の完全な地方公共団体とは考えられていなかつたものであると主張する。しかしながら、都の区の沿革を顧みるときは、つとに市の下級地方公共団体として認められ、終戦後民主主義の建前より地方自治制度の根本的改革に際し、その一環として昭和二一年一〇月五日より東京都制の一部を改正する法律が施行せられ区の課税権、起債権、分担金徴収権等の制度を復活し、区会の権限も地方自治体たるにふさわしく拡張されたのみならず、区長の選出には当該区民による直接公選制が採用せられ、新憲法施行の直前に公選が行われ、またその後においてもこれが続けられて来たのである。なるほど特別区は他の市とはやや異り、検察官主張の如き特別の取り扱いがなされていたことはこれを認めるにやぶさかではないが、これは都と区との間における特殊関係の存在するためであり、これがため特別区は、一般に比して権能の差を存するとしても、その住民に行政を執行する地方公共団体であるという事実を否定することはできないのである。検察官の挙げる前示警察法、消防組職法等においても、特別区の存する区域においては、特別区が「連合」してその区域内における警察および消防の責に任ずるものとされているが、この「連合」の字句の中に、すでに各特別区が固有の権限を有することを前提としているものと解し得られるのであつて、却つて特別区が自治区として独立性を有することの片鱗を窺い知ることができるのである。

一、検察官の前記主張は、とりもなおさず憲法上の地方公共団体とは、いわゆる「それ自身で完結した一般的権能を有する地方公共団体」とか「地方公共団体を形づくるいわば基本的標準的な地方公共団体」という立場を採り、これを前提とした議論である。しかしながら、この考え方には以下述べる如き重大なる危険が包蔵されていることを見逃すわけにはいかないのである。そもそも地方自治に関し憲法の企図するところは、前述せる如く地方自治を確立し、そのため既存の地方公共団体はこれを一層完全な自治体とすることにあるのは論を俟たないところで、この趣旨に立脚する限り、特別区も前述の如く憲法の発足時より存在した団体であるから、たとえこれが重要機能を全面的には持たない特殊団体であるとしても、これを一層完全なる自治体へと発展せしめることこそ、憲法の前示趣旨に合するものというべく、その長の公選制を廃して一層不完全なる自治体とすることは、右趣意に牴触すること明らかである。もし検察官主張の如く地方公共団体の有する権能の範囲の如何により、憲法における地方公共団体であるか否かを決するものとするならば、府県の権能を法律で奪い、その結果として府県は一般的権能を有しない地方団体なりとして、その長の公選制を否定することも可能となるわけである。この憂慮は前示国会において、政府委員(法制局長官)も憲法上あり得る問題であると率直に認めていることでも明らかである。しかし、これは憲法第九三条の趣旨からいつても、到底承認し難いところであるから特別区の権能の如何によつて、これを憲法上の地方公共団体であるか否かを決することは許されぬものといわねばならない。

一、次に検察官は、憲法上の地方公共団体の要件として住民の共同意識ということを取り挙げ、各特別区の住民にはその属する各特別区に対する共同意識が全く存しないことを論拠の一つとし、終戦後において都の三五区が二三区に統合整理された際にも、一般的にいつて区民がこれに対し何等の反抗を示さなかつたという事実をあげ、これは区民の区に対する共同体意識のなかつたためであり、区の住民は都民意識を有するに過ぎないと主張するのである。しかしながら、共同体意識という概念は検察官主張の如くしかく明白なものではなく、仮りにその主張の如く解するとしても、区の統合整理は当該区民にとり、自己の所属する基礎的公共団体の消滅を意味せず、且つ当該区民の利益と目されたため反対のなかつたものと考えられるのであり、地方自治法の改正により、区長公選制の廃止という特別区の実体が消滅に瀕するや、忽ちにして各区民の間に激越なる反対が惹起された事実に徴するも、いわゆる区民の共同体意識が全然なかつたものとはいえないのである。しかして現今の京町村の実態を見るときは、交通不便なる昔時における地方集落体の孤立した時代とは異り、都市が膨張、発展、隣接し交通の至便、経済生活の必要等に応じ、各市町村間の住民の交流が極めて頻繁なる現状においては、共同体意識という観念はしかく強固であるとは断定し得ないのである。又この共同体意識を強調し、共同体的自治をあまりにも固執するときは、過去において苦い経験をなめた全体主義素朴なる中央集権へ逆行する危険をはらむ虞なしとしないのである。

一、さらに憲法は原則として地方公共団体は基礎的公共団体としての市区町村、上層的公共団体としての都道府県という重畳的構造の建前を要求しているものとみなければならない。しかかるに各特別区が憲法上の地方公共団体である市と同格の地方公共団体に非ずとすれば、この特別区を構成する二三区の区域には都という府県的な上層的地方公共団体のみが存し基礎的地方公共団体が存在しないこととなり、右の如き重畳的構造の性格に反することになるわけである。あるいは、都が府県的な上層的地方公共団体と同時に、二三区につき基礎的地方公共団体をも併有していると反論するかも知れない。しからば一応これを肯認するとして、次の如き地方自治の本旨に反する不都合の発生を避けることはできないのである。すなわち、二三区以外の三多摩、大島地方に居住する都民は、都の長である都知事を選出し得るが、これら都民によつて選出された都知事は同時に二三区の団体の長をも兼ねているのであるから、これら三多摩、大島地方に居住する都民は、自己の所属する自治体以外の公共の長の選出にも関与したことになるし、又二三区以外の三多摩、大島地方の選出した都議会議員が二三区の行政に対しても発言権を持つという不合理を避けることはできないのである。あるいはこれに対し、東京都の特殊性という点を強調し止むを得ない体制である旨弁疏するが、これは地方自治体の在り方の根本問題であり、かかる事態は憲法の明規する地方自治の本旨である団体自治、住民自治の精神からみて到底是認し得ないところである。

一、なお弁護人長谷川一雄は特別区は地方自治法において他の同種の地方公共団体である市と共に、その長の公選制を規定していたのに拘らず、地方自治法第二八一条の二の改正により特別区のみを住民投票によらずして公選制を剥奪した同条は、憲法第九五条に違反する旨主張するが、なるほどかかる疑いの存するとしても、すでに特別区は憲法上の地方公共団体であり、地方自治法の改正のみによりその長の公選制を廃止することは許されないと判断した以上、更にこの点に触れる必要なきものと考え、その判断を省略する。

一、東京都は今や人口一千万人を超えて日本全人口の一割に達し特別区一区のみにても優に地方の一県又は大都市に匹敵するものであり、これを都の内部に吸収しその内部的機構とすることは、かえつて幾多の障害を生ずる虞なしとせず、むしろ独立した自治団体として、区民自治を全うせんとしたのが、特別区の企図した趣意であるとみるならば、前示解釈は洵に相当であると思料されるのである。

一、以上の如くであるから、特別区の区長公選制を廃止した地方自治法第二八一条の二は、違憲の譏りを免れない無効のものと解するの外ないのである。しかして贈収賄罪の成立には、前示の如き適法無効なる職務権限の存在を前提とし、この職務に関し不正利益の授受が行われることを要件としているが、本件公訴事実に主張せる如き被告人らの渋谷区議会議員として「同区長候補を定め区長を選任する」という職務権限は、前記判断の如く違憲無効のものであるから、本来渋谷区議会議員としての同区長の選任に関する職務権限が存在していたとはいうことができず、したがつてこれに関し公訴事実記載の如き金員の授受行為があつたとするも、贈収賄罪の成立をみる余地が存しないのである。もちろん被告人らのかかる行為は、道徳的には極めて高く非難するに値し、被告人らにおいてその責を回避することは断じて許されないというべきであるが刑法上同罪の責任を問うに田ないというの外ないのである。よつて被告人らの前示各為所は罪とならずと解し、刑事訴訟法第三三六条前段に則り、被告人全員に対し無罪の言渡をすることとする。

一、公判出席検察官 検事 笹岡彦右衛門。

昭和三十七年二月二六日

東京地方裁判所刑事第一六部

裁判官 野 瀬 高 生

別表第一――第四

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